水曜日の午後四時のこと。暮れ始めたオレンジの日が差し込むリビングには、スカートを剥ぎ取られ床に四つん這いになった妹と、その脇に正座して50センチの竹の物差しを振るう母の姿があった。

母が手首を返すたび、物差しが弧を描いて妹の尻に平行に当たり、バチン、バチンと軽い音を立てながら、薄い下着に透けた肌を少しずつ赤く染めていった。

「なんで行かなかったの!」

反抗期の妹がバレエの習い事をサボった、そのお仕置きだ。最近は行きなさいと家を叩き出されても、時間を潰して戻ってくるのがパターンだった。

教室まで手を引いていって中に押し込んでしまえば、借りてきた猫のように大人しくなるらしいが、さすがに毎度毎度、"力尽く"で送っていくのも近所の目が気になるらしかった。

「どれだけお金が掛かってるか、わかってるの?」

そう言ったところで、小銭すら稼いだことのない妹にはわかりっこないだろうに、母は毎回このセリフをお説教に含めたがる。

「あなたのためでしょ!」

そして、この言葉もだ。僕は妹がバレエをやりたいなんて言ったのを聞いたことがないし、楽しいと言ったのも聞いたことがない。

「女の子なんだから、バレエの一つくらい踊れないと!」

踊れない女なんて世の中にいくらでもいることは、まだ学生の僕や妹でも知っていた。もちろん、女の子なんだからと言う言葉を、軽々しく大人の世界で言ったら問題になることも。そして、こう言う母の運動神経が壊滅的なこともだ。

「お兄ちゃんに笑われるわよ!」

物差しが翻り、また少し妹の尻の色を濃くする。どうやらこのセリフを使いたいがために、僕は毎週水曜日に妹のお仕置きを見せられている。

いや、これは僕に対する見せしめの意味もあるのだろうか。

とにかく、昔からうちのお仕置きは兄妹の前でやるという決まりになっていて、僕は妹が叩かれている間は、母の後ろで正座しながら静観していなければいけなかった。

「黙ってないで、なんとか言いなさい!」

言えと言われても、なにを言えばよいのだろう。やりたくないと言えば、最初からやり直し。ごめんなさいと言えば、わかってるならなんで行かないの、と、やはりやり直しだ。結局は、母の気の済むまで物差しとお叱りを受けるほか無いのは、僕も妹もとっくに解っていた。

「私の気持ちも知らないで!」

そう言う母親こそ、良い家の子が通う習い事に憧れた子供の頃の自分の気持ちと、目の前の娘の気持ちが違うことを知らないんじゃないだろうか。

「返事くらいしなさい!」

バチン、バチンと連続して音が響いた。下着越しでも真っ赤に腫れているのがわかるほどになっても、今日の妹は歯を食いしばって、まるで嵐が過ぎ去るのを待つかのようにじっと堪えている。

(こいつは、なんでこんな目にあってるんだろう)

不意に外の通りをトラックが通り過ぎ、窓越しに眩しかった夕日が一瞬陰った。ある種の幻想的な部屋の中、それでも目の前の現実はお仕置きの図。ヒステリックな母の声と尻叩きの音が旧式のエアコンのノイズと混じり合って、あらめて意識すれば、なかなかウンザリな夕暮れ時だった。

こうしている間、僕は母に気取られない程度に視線を外している。そしてそれは、僕が叩かれている時の妹も同じだった。どうしても視界の端には入ってしまうし、時々は見てしまうこともあるのだけれど、尻を叩かれているところなんて、見ても見られても、お互いに気持ちのいいもんじゃないからだ。

「わかったの!?」

この言葉とともに、手首を返すだけだった母の叩き方が、腕を大きく振り上げたものに変わった。物差しが勢い良く妹の尻に当たると、先程までとは明らかに違う激しい音がして、俯いたまま耐えていた妹の体が跳ねるように仰け反った。

そんなキツイのを間髪入れずに数発。

『ごめんなさいぃ!!』

ついに我慢も限界に達し、妹は嗚咽をあげて泣きはじめる。それでも母はまだ小言を言いながら、しばらくの間、ペチペチと腫れた尻に物差しを入れ続けた。

さっきのより弱い叩き方とはいえ、母のお仕置きはここからが地獄なのだ。いつも泣きじゃくりながら、はい、とか、わかりました、とか絶叫し、頭がぼーっとする頃になって、ようやく許してもらえるのだから……。

「いいわね、お父さんが帰ってくるまで、そこに立ってなさい!」

窓際、ちょうど束ねたカーテンの前に下着のまま立たされた妹。その尻は、やはり下着の上からでもパッと見てわかるほどに、真っ赤に腫れていた。

「見んなよ……」

お仕置きを終え、洗濯物を取り込みに行った母に聞こえないように、妹は小さな声で言った。涙交じりの鼻声に、見てねーよ、となるべく素っ気なく聞こえるように返して、僕はソファにもたれ目を閉じた。



※…お久しぶりの更新です。たまには?ほんのり理不尽系。お仕置きに疑問を覚える頃、どこか特別だと思っていた親も、ただの人だと気付き始める頃。

拍手コメント返信用

拍手コメントへの返信です

・2017/08/23 トモヤさん
お久しぶりです!ありがとうございます!
例によって拍手コメに気づくのが遅れてしまいました。ごめんなさい。


・2017/02/27 Kさん
コメントいただいている事に気づくの遅れました、ごめんなさい。
厳しいお兄様なのですね!
とても、日本語お上手ですよ。見てくださって、ありがとうございます。
ヽ(*´ェ`*)ノ


・2017/02/20 悪い子さん
エラーがなおった!? というわけで、不具合記事を削除しました。
そして、お久しぶりです(´エ`)ノシ

鳥たちのさえずりに、心地よく眠りから覚める。残念ながら片桐家では、そんな優雅な風景は見られなかった。まだ朝の六時半、気温の上がりきらない清々しい青空に響き渡るのは、びっちんばっちん、激しいお尻叩きの音と、ぎゃーぎゃーわんわん、泣いている子供たちの声なのであった。

いかにも子供部屋らしいカラフルなラグの上、兄と妹は二人並んで四つん這い。寝起きの顔を洗う暇も与えられず、文字通り叩き起こされている。傍らで母親が振り上げているのは、古めかしい布団叩き。もちろん、それなりに力加減はしているのだが、節くれだった籐の鋭さは、さっそく幼いお尻たちにミミズ腫れをいくつか描いていた。

オネショだろうか。いや、どうやら違う。太腿まで引き下げられた二人の下着は乾いているし、布団だって湿っていない。じゃあ、なにゆえに、朝からこんな事態になったのか。当然ながら、それには相応しい理由があるのである。

……

それは昨夜のことだった。

「おやすみー」
「おやすみなさい」

家族揃ってご飯を食べて、お風呂に入って歯磨きもして、兄と妹は子供部屋へと戻っていった。もう夜の十時半。あとは寝るだけ、ベッドにダイブ……するはずだった。

「ねむれん」
「わたしもだ」

今日に限って、兄と妹は目が冴えていた。その日、たまたま夕飯前にウトウトとリビングのソファで船を漕ぎ、さらにさきほどテレビの番組で、それはそれは怖い話を見たからなのである。

「すごかったなぁ」

幽霊の姿を思い出し、兄は言う。

「おう、あれはよくできていた」

それに応じて、妹は番組の出来に感心した様子で頷いた。

大人からすればなんてことはない、ありふれた怪談や不思議な体験をまとめたショートストーリー集。しかし、短編ドラマ仕立てで雰囲気たっぷりのその番組は、まだまだ経験値の少ない子供たちには、ずいぶんと新鮮かつ刺激的だったらしい。

「だめだ、ねむれん」
「うむ、これがねてなどいられるか」

あるいは、怖がって眠れないというのであれば、むしろ、まだ良かったのかもしれない。少なくとも、朝まで大人しく布団に包まっていたはずだから。しかし、性質の悪い事に、こやつらは好奇心や冒険心を擽られ、興奮して眠れなくなっていたのである。

「探検だ!」
「この目で見ねば!」

二段ベッドの上と下。兄と妹は親たちに聞こえぬように声を潜め、しかし、しっかりと意思を確かめあったのだった。

「ならば、もう少し、奴らの寝静まるのを待って……」
「道具の調達は、わたしにまかせるがよい」

タオルケットを跳ね除けた兄が下段のベッドを覗き込むと、無駄に座禅を組んでいた妹は、眼鏡のツルを指でくいと持ち上げてみせた。普段、ケンカばかりしている二人も、こういう時だけは気があうのだ。

……

深夜の三時三十三分に鳥居を潜ると異世界に行ける。なにがどういう仕組みかは知らないが、少なくとも、さっきのテレビはそう言っていた。

「さすがに暗いなぁ」
「まあ、夜中であるからなぁ」

玄関に常備してあったLEDの懐中電灯と、小遣いで買ったデジタルな腕時計が、深夜の道をゆく彼らの装備であった。住宅街を離れ、疎らになった街灯の隙間を今時の青白い光が照らす。

「意外と出られるもんだなぁ」

兄がトイレにいくふりをして水を流し、妹がその音に紛れて靴と電灯を拾う。そんな高度な連携プレイ。後は自室の窓から出てしまえば、家から抜け出すのは造作も無いことだった。

「そらぁ、彼らも夜は寝るであろうさ」

大人は疲れているからな、と、妹はサンダルをサリサリとアスファルトに擦り付けながら、兄の横を歩いていた。

深夜二時半。子供の足で二駅ほど離れた神社に向かうには、ちょうどよい頃合いだった。

……

ざああ。暗い夜空に解け消えた、木の葉を揺らす風の音。懐中電灯のしょぼい灯りで描き出される土の地面や、年季の入った石畳。それら普段とは違った景色が、二人には特別で新鮮だった。

あるいは、いけないことをしているという事実が、より気分を盛り上げたのかもしれない。

「着いたなぁ」
「意外と掛かったなぁ」

だから、臆することなく最後まで来てしまった。朱色の鳥居を前にして、二人は手の甲で額の汗を拭い、改めて時間を確認した。あと五分、ギリギリセーフ。自転車なら大した距離ではないのだが、歩いてみると結構あったのである。

「よし、もうすぐだ」
「おう」

腕の時計を確認しつつ、繋いだ手の平はお互いに汗ばんでいた。歩き疲れたせいもある。しかし、冒険心はあるとは言っても、やっぱり、なんだかんだ言って少しは怖いのだろう。

「いまだ!!」
「うおお!!」

三時三十三分。タイミングを見計らい、二人はダダダッ!と駆け出した。

『誰だっ!!』

そして、社務所に詰めていた宮司さんに御用となった。

……

『申し訳ございません、すみません、ごめんなさい、ご迷惑おかけ致しました』

こんな言葉が何百回聞こえたことやら。連絡を受けてタクシーで迎えに来た両親は、平身低頭、改めてお詫びに来る旨を伝え、二人を引き取り家に帰った。

『なんでこんなことしたの!!』

まずはそう怒鳴られて、成り行き、ビンタの二つ三つも貰うかと思いきや、神社でも帰りのタクシーの中でも、両親は静かなものだった。

『はぁ……』

人前だからか、深夜だからか、あるいはその両方か。ともかく、疲れきった深い溜め息が何度も吐かれ、両親の表情はすっかり寝不足といった塩梅の、少なくとも、いつも子供たちに見せているそれとは程遠くなっていた。

「今日は寝ろ、明日も仕事だ」
「いいからもう寝なさい……」

帰って早々、ぐったりとした様子の両親に追い立てられて、二人は自室に押し込まれた。怒られなかったぜ、ラッキー! なんて一瞬考えたのは確かだが、しかし、次の言葉が二人に現実を突きつけた。

「朝一でお仕置きするから、覚悟しときなさい」

特別に厳しくするからね、という抑揚を殺したセリフとともに閉められるドアを見て、今更ながらに二人は震え上がったのであった。そう、この家では、悪いことには必ず罰がついてくる。内容はもちろん、お尻ペンペンのお仕置きだ。

……

そして、朝、布団叩きが弧を描き、また一つ、ばちんと景気の良い音がした。

「も、おしりむりぃぃぃ…!」
「だめ、ちゃんとお尻上げなさい」

痛みに耐えかねへたり込んだ妹に、母親は容赦なくお仕置きの続行と、姿勢を崩した分の追加罰を告げる。ばち、ばち、ばちん!と小刻みに連続で打ち鳴らされて、妹の真っ赤なお尻が激しく踊る。

「昨夜、どれだけの事をしでかしたのか……しっかりとお尻で反省しなさい」

小さな手首を捻り上げられ、また元のように四つん這いの姿勢を取らされる。兄は腫れ上がった妹のお尻を横目に恐々としつつも、自分はああはなるまいと、挫けかけていた体に再び力を込めて、次の一発に備えたのだった。


おしまい。


※とある方に描いて頂いたイラストに強い刺激を受け、勝手ながら書かせて頂きましたヽ(*´エ`*)ノ
二人の性格は作ってしまいましたが、元キャラがいましたらごめんなさい。
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