読み切り小説 - 桃尻文庫

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診断メーカーお題 彼の「ごめん」は軽すぎる



彼の「ごめん」は軽すぎる。
はにかみながらそう言う度に、俺は何でも許してきた。
仕方ない、悪気があったわけじゃないんだからって。
でも、今日の失敗はまずかった。

玄関を飛び出した彼の前を、ワゴン車が通り過ぎていった。
ぶつかる寸前、仰け反るように後ろに倒れ込んでギリギリセーフ。
いつも気をつけろって言ってるのに。
血の気の失せた俺に、彼は振り返っていつもの「ごめん」。
ダメだ、今のはダメなんだ。

思わず彼を抱きしめて、そのまま力任せに尻を叩く。
手の平がジンジンと疼きだす頃、いつもの「ごめん」は「ごめんなさい」に変わった。
痛かったね、でも。
もう会えないかもしれないと思った。


改行を除いて280字。軽めのお題でお茶を濁す試み。

おねしょの朝

こんなモノがあったので、


ちょっとやってみたのでした。


あの日もこんなふうだった。バカみたいに青い空、日差しを受けた肌がジリジリする夏の朝。隅にカラの植木鉢が投げ出されたままのベランダの庇では、短冊の傷んだ風鈴がさっそく風に吹かれて鳴っている。

絵面だけなら涼しげだろう。でも、その時の私は、寝巻き代わりのタンクトップを汗でじっとりと湿らせていた。部屋から漏れ聞こえる、夏らしい一日になるという朝の情報番組の声の通り、すでに外はムワッとした熱気が立ち込めているのである。

登校時間には間があるせいか、柵から通りを見下ろしても人影はまばらだ。朝の早いスーツ姿の大人たちや掃き掃除に出たお年寄りが、軽く会釈しながらすれ違っていくのが、まだポツポツと見えるだけ。

不意に掃き掃除をしていた老人が腰を反らし、空見上げて視線を巡らせる。良い天気だなんて思っていたのだろうけれど、その仕草に気づいた私は、こっちを見るなと願いながら、慌てて湿った布団の影に身を隠した。そう、今朝は、おねしょ、したのである。

我が家では、おねしょをするとお仕置きがあった。今ほど夜尿症が深刻に捉えられていないかわりに、それに対する扱いもまた、ぞんざいなものだった。子供は漏らして当たり前。そのかわり、叱ることも当たり前。

今のように大騒ぎして病院を連れ回され、知らない人にプライベートを探られるのと、さて、どっちがマシかはわからないが、今になって思い出すのは、こうして閉め出された朝の景色と、あと一つ。その後のお尻ペンペンの気の重さだった。

「入ってお尻向けなさい。まったく、小さい子みたいにお布団濡らして」

しばらくしゃがんでいると、いずれカラカラとガラス戸が開く。そそくさと引っ張り込まれた私は、今度は部屋の真ん中で四つん這いになり、お○っこくさいお尻を母に赤くされるのである。

パチン、パチン、パチン……。

ここまで素直に出来ていれば、というか、忙しい朝に余計な手を煩わせなければ、そんなに強くは叩かれなかった。さすがに何度打たれたかまでは覚えてないけれど、平手がお尻に落ちる度ごとのピリッとした独特の刺激と圧迫感はまだ思い出せる。

パチン、パチン、パチン……。

少しずつ叩く位置を変えながら、満遍なく叩かれる。本気で打たれているわけではないとはいえ、回数が増えれば痛みも増してくるし、なにより大好きな母に(今は照れくさいが)手を上げられているという心細さが、幼心を揺さぶって、じんわりと涙を誘ったのだ。

パチン、パチン、パチン……。

おおよそ一、二秒に一回のペース。時間にすれば僅か五分も立たないうちに、私はごめんなさいと嗚咽を上げた。こうなると話は早く、母の「反省したね」の声と同時にお風呂場まで引っ張られ、出しっぱなしのお尻をシャワーで流されると、そのまま涙も止まらないうちに制服を着せられた。

「さ、早く食べちゃって」

テーブルに着くと、お締め出しの間に焼かれたトーストと昨夜の残り物が用意されていて、眼の前でオレンジジュースが注がれる。焼き立てのパンの香りを楽しむ余裕なんて無く、私はまずそれを一気に飲み干してから、涙の味の残ったトーストを齧るのだった。

……

それから時は経って、今度は私がトーストを焼いている。私の頃と同じように、シーツと一緒に軽い水洗いを済ませたパンツは、すでに洗濯機の中でくるくると回っていた。

「ねー、ちょっとは悪いと思ってたりする?」
「んー……」

朝の子供向け番組を見ている我が子に問うてみると、なんとも眠そうな生返事が返ってきた。いっぺん、お仕置きでもしてやろうかと思いつつ、まあ、今時そりゃないかと、ジャムの封を切る。

なんてったって出るものは出るし、たかだか数年直るのが遅かったところで、大人になれば大差のない時差だ。本人が悩む歳になったら診てもらうのもいいかもだけれど、それまでは、親の務めとでも思っておこう。

「寝る前にトイレ行きなよー?」
「んー……」

湿った布団を抱えてベランダに出ると、タイミングよく風鈴がチリンと鳴った。ああ、今日も空が青い。


以上、改行点丸含めると1680字ぴったりなはず。伏せ字はブログのNGワードに引っ掛かるため。もうfc2ブログは諦めたほうがいいかもなぁと、ふと思った。

初めての罰ゲーム

午後三時半、ランドセルがいくつも転がる放課後のとある家。薄型テレビからは時代遅れな電子音が流れ、道着をまとった格闘家が、どういうわけだか手の平からエネルギーを飛ばしあっていた。共働きの親が留守の時間帯、ここはちょっとした溜まり場になっているのだ。

『YOU WIN』

古い対戦型の格闘ゲーム。画面に派手なフォントが表示され、2P側のチャイナドレスの女が甲高い悲鳴と共に倒れ伏すと、道着の男の勝ちポーズに合わせるように部屋が沸いた。

「勝負あり!」
「尻だせ、尻!」

負けたのはリク、この罰ゲームを提案した本人だった。三回負けたらおもちゃのバットで、お尻を叩かれること。世代から少し離れた古いソフトを楽しむには、少しばかりのスパイスが必要だったから、みんなも同意した。

一つ誤算だったのは、誰かが負ける度にエスカレートしていったことだった。最初、軽く当てるだけだったスイングは次第に振り幅が大きくなり、腰が引けていると、もっとしっかり突き出させるようになった。

「痛っ!」

パコッ!と小気味よい音を立て、プラスチックのバットがズボンのお尻にヒットする。応援用の軽いものだから大して痛みはないが、それでもズボンの上からお尻を擦って痛がってみせる。こうして誰かが負ける度にさっと尻を向け、勝った方がスイングする。

そんな罰ゲームが一巡すると、みんなはさらなる刺激を求めはじめたのである。

「今度から負けたヤツ、パンツ下ろして生ケツな」

勝ち越したカイが告げると、他の数人もいいねーと歓声をあげた。こんな時、誰も自分が負けた時のことを顧みないのが、この年頃の熱しやすさであった。場の盛り上がりが、なによりも強かったりするのである。

『YOU WIN』

ややあって画面の中では、今度は道着の男が倒れ伏していた。不意の負けに、それまで順調に勝ち越していたカイは狼狽えた。まさか、言ったそばから自分が負けることになるなんて!

「今度は生ケツって言ったよね」

コントローラーを握ったまま、おずおずとするカイにすかさず野次が飛ぶ。さすがにアレは冗談だった、なんて言う隙も与えまいとして、狭い室内では尻コールが沸き起こる。カイにしてみれば、このコールをする側にいるはずだった。それを見越して連勝中の相手に、誰も反対しないタイミングで切り出したのである。

「えー、マジで……?」

半笑いで及び腰のカイに、連敗を喫していたリクは実力行使に出た。

「よいではないかー♪」

バラエティだか時代劇だか、はたまたよろしくない動画サイトでも見たのだろうか。楽しげなセリフを口にしながら、勢いのまま脱がせに掛かる。組んず解れつ、カイを器用に抑え込んでいく。カイも身を捩ってせめてもの抵抗を見せるが、やはり言い出しっぺである負い目のためか、力任せに跳ね除けることもできず……。

ズルリ。

馬乗りにされ、見事にお尻を剥き出されたのであった。

『おぉー!!』

お尻が顕になると同時に、その場にいた数人から歓声が上がる。ずり下ろされた白いパンツが股の間で三角形を作ると、カイは早くも恥ずかしさに涙目になっていた。全部、見られてしまった……。

『ペンペン♪ペンペン♪』

次いでペンペンコールが起こり、勝者のバットがリクに手渡される。リクはバットを高く掲げると、しなやかに手首を返してカイのお尻に打ち下ろし――

パチーンッ!

――ズボン越しとは違う、弾けるようなお尻の音が室内に響き渡ったのであった。


2018-06-17 罰ゲーム応援バット 


パチーンッ!……パチーンッ!……パチーンッ!!

その日、それからも数回お尻の音と歓声が繰り返され、罰ゲームが一巡する頃には彼らの間に不思議な連帯感のようなものが生まれていた。銭湯に行った時など隠しもしないし、プールの着替えの時にちらりと見えてしまう時は、なんてことはないはずなのに。

部屋でお尻を出す独特の感覚。集まるみんなの視線、ヒリヒリとした軽い痛み。まだ性欲もその発散も理解してしない彼らの胸中には、恥とも屈辱とも興奮とも言えない、妙な高揚と新しい種類の興奮が燻り始めていた。

そして、彼らは集まる度に誰からともなく、こう切り出すようになったという。

「ねぇ、今日はやるの……罰ゲーム?」



おしまい


※…お仕置きとは少し毛色の違ったものを書いてみました。

ぱちん

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
お母さんの手の平が、ひらりと舞って音を奏でる。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
夕飯を食べる私の横で、妹のお尻がぴょこぴょこ踊る。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
テレビや食器の音に混じって、しつけの音が絶え間なく続く。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
テーブルには、吐き出された人参が包まれたティッシュ。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
ごめんなさいが言えない妹は、今日もお尻に教えてもらう。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
しかめっ面の目尻に、涙がにじむ。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
声をあげて泣きはじめたら、ごめんなさいまで、あと少し。

ぱちん、ぱちん、ぱちん。
ぱちん、ぱちん、ぱちん。
ぱちん、ぱちん、ぱちん。

でも今日は、もう少しだけ、かかるかも。

冬の玄関

冬休みの夕暮れ時、今日も帰宅を促す夕焼け小焼けのチャイムが街に響いた。

「やばい、帰らなきゃ!」

友達の家に集まり持ち寄った宿題を片付けた、その後のボードゲーム大会の最中。今の今まで一番はしゃいでいた少年の血の気がすっと引き、かと思えば、つんのめりそうな勢いで玄関へ向かっていくのを見て、仲間たちはやりかけのゲームのコマを片手に、半ば呆気にとられていた。

「あぁ、おう」
「じゃあな……」

別れの挨拶を背に受けて、少年が入り組んだ住宅街へ走り出る。アスファルトをパタパタ叩くスニーカーの靴底の音。激しい息遣いに合わせ、白い息が機関車のようにたなびいていった。

(急がなきゃ!!)

冬の向かい風に煽られながら、頬を赤くし必死に走る。彼がここまで急ぐ理由は、すでに家の門限を過ぎているからだった。

『危ないから、暗くなる前に帰ってきなさい』

冬休みに入る前、母親からたしかにそう言われ、門限を三十分ほど早められたはずだった。だが、遊びに夢中になった彼は、つい今までの習慣で、夕暮れのチャイムが鳴るまで没頭してしまったのである。

(どうしよう!)

自宅に向かって走りながら、罪悪感と焦りと不安が綯い交ぜになった、なんとも言えない思いがこみ上げてくる。実は今月に入ってからまだ一週間と経っていないにも関わらず、彼はすでに一度、門限を破ってしまっていたのだ。

『今度やったら、お仕置きだからね』

四日前、門限を遅れて玄関に飛び込んだ彼に、母親は一頻りお説教をしてからきっぱりと告げた。お仕置き、つまりは反省させるための体罰である。最近では珍しくなってはいるが、まだまだしている家はしているようだ。

(あっ……!!)

大通りの赤信号に引っかかって足を止め、呼吸を整えいまさら違和感に気がついた。頭部にあるべき感触がない。そう、帽子を友達の家に忘れてきたのだ。しまったと思った途端、彼は膝から崩れ落ちそうになった。

(どうしよう……どうしよう!!)

なぜここまで動揺しているかといえば、それだけお仕置きを恐れているからだ。どうやら彼の家は、今時ではかなり厳しい方針らしい。普段からガチガチに縛り付けるような雰囲気ではないものの、いざ悪い事をしたとなれば、きっちりきっぱり、お尻に返ってくるのであった。

『その靴べらを使って遅れたぶんだけ、たっぷりペンですよ!』

前回、母親に言われた言葉が頭の中で再生された。少しでも早く帰らなければ、門限の破りのお仕置きが重くなる。かといって、帽子をそのままにしておけば、今度は忘れ物のお仕置きまで追加されるに違いない。

行くべきか、戻るべきか。

慌てふためく今の少年には、冷静に量刑を比べるような事はとても出来なかった。

(ああ……)

どうしていいかわからずに立ち往生。こうしている間にも時間が過ぎ、赤だった信号が青に変わった。そして、まるでそれがスイッチだったかのように、じわり、涙が湧き出してLEDの青い光を滲ませる。

(もうだめだ……)

次いで、ひくひくと呼吸が乱れだし、鼻の奥がツーンとし、いよいよ涙のダムが決壊するかという寸前、しかし、背後からの心強い声に少年は我に返った。

「おーい!!」

振り向くと、先程まで一緒に遊んでいた仲間の一人が、自転車で追いかけてきていた。

「コレ、忘れてったでしょ」

帽子をぽんと渡されて、あほー、と手数料代わりの軽口を一つ。それだけで、彼はまるで命を助けられたような感じがした。じゃあねー、と別方向に去っていく友達の背中が、まるで救いの神のように見えたといっても、今の彼には決して大げさではなかった。

(よかった……)

再び赤に変わった信号の前、受け取った帽子をしっかり被り、ほうと安堵の息をつく。そして、気づいた。忘れ物はなんとかなっても、時間の問題は解決していないことを。

「ただいまッ!!」

玄関のドアを開けて飛び込むと、ほとんど同時に母からの詰問が始まった。玄関を上がってすぐ横の客間で待機していたのである。

「おうちに上げる前に、大事なお話があります」

どこに行ってたの? どうして遅れたの? 約束した時間を覚えてないの? それとも門限なんて破ってもいいと思っているの? こうした変哲ない淡々とした言葉が、逆に少年の罪悪感を的確に煽っていく。

「帽子、取りに戻って……いしかわくんが、途中で届けてくれて……」

しどろもどろになりながら必死で答えるうちに、さっき引っ込んだ涙が再び滲んできた。目の前にある、母親の冷たい表情がどんどん白く霞んでいく。

帽子を忘れて戻ったのね? いしかわくんが途中で届けてくれたのね? ただの説明の確認さえも、まるで一言一言責められているような気がし、少年は早々に涙声になっていた。

「悪い子は、どうなるんだっけ?」

事情聴取の締めとして、あえて抑揚のない声色で告げる母。大人から見れば、わかりやすすぎるほどの怒った演技だが、しかし、その作り上げた表情の裏に潜ませた我が子が無事に帰った安堵を、幼い彼に見破ることはできなかった。

「お仕置き、です……」

ごめんなさいは、もう言った。もうしませんも、もう言った。それでも母親の表情は変わらなくて、声も冷たいままだったから、彼にはこう言うしかないのだった。

「じゃあ、さっさと準備しなさい」

文化住宅の狭い玄関。コンクリートに石模様のタイルを張ったタタキの上で靴を脱ぎ、ズボンとパンツを下ろしていく。こうなることを見越していたのか、家の中は玄関に至るまでしっかり暖められてはいたが、外から帰ってきたばかりの手は冷たく悴んで、ベルトやホックを外すのに手間取った。

「できました……」

ズボンもパンツも綺麗に畳み、コートと一緒に靴箱の上に重ねておいたら準備完了だ。

「お母さん言ったよね。今度はこれでペンするって」

言いながら、脇にかけてあったプラスチック製の靴べらを手に取る母親。門限の遅れが三十八分だった事が改めて告げられると、少年は既に涙に濡れた顔を、さらにぐしゃりと歪ませた。

「三十八回ですよ」
「はいっ」

道具を使ったお尻叩きの痛みは知ってはいたが、今までに三十八回も叩かれたことはなかった。こんなの、本当に耐えられるんだろうか。怖気づいて固まりかけるが、それでもビュッと素振りをして見せられたら、どれだけ怖くても大人しく従うほかなかった。

「おねがいします……」

ドアの方へ向き直り、膝に手を当てたらお仕置きの挨拶である。お尻を叩かれるというのに、お願いしますというなんてなんだか奇妙な気もするが、この家族にとっては当たり前のことだった。母親もまた、幼い頃はこうしたお仕置きを数え切れないほど受けて育ったのだ。

「お尻でしっかり反省しなさいね」

ゆえに、お仕置きの口上や力加減も心得ていた。甘さを感じさせることなく、といって無駄に苦しめることもなく、反省させるために必要なだけの適切な量刑と態度を、しっかりと見当をつけて演じていた。

「いッ!」
「お尻を引くんじゃありません、元に戻しなさい!」

パチン、パチンと乾いた音が響く度に、ひょこんひょこんと上下左右に揺れるお尻。一発ごとにお尻の位置を直させるのも、変な所に当たらないようにと配慮している結果なのだが、当の少年にとっては自らの意思でお尻を曝す恐怖もまた、しっかりお仕置きになっていた。

「あと十よ」
「はいっ」

ひぐひぐと息を乱す少年の、やけっぱちのような返事。すっかり泣き濡れ、鼻水を啜るズルズルという音の合間に、打擲の音がテンポよく入る形になっている。厚手の玄関ドアを通しても、お仕置きのリズムはしっかりと外まで漏れており、くぐもりながらも道行く人々を振り向かせる程度には、独特の躾の雰囲気を保っていた。

「三十八、これで最後!」
「ぎゃっ……!」

バチンッ!とラストは強めにヒットして、その日のお尻叩きは終りを迎えた。歳頃、まだスベスベとした白い肌にクッキリ浮かびあがった真紅の痕は、とてもペンペンなんて可愛らしく称せるものでなく、きっちりと痛みをもって反省させる、お仕置きと呼ぶに相応しい様相だった。

「ありがとう、ございました……」

じんじんと疼くお尻を擦りながら、なんとか終わりの挨拶をする少年。後は正座が残っているが、とりあえず、もう痛いのは終わったはずだ。ふう、と小さくため息を吐き、その場で正座をしようとした少年に、しかし、母親から予想外の言葉が掛けられた。

「まちなさい。まだ、もう一つあるでしょ?」

ぽかんとする。

「間違っていること、あったでしょ?」

思わず涙も引っ込んで、痛さや怖さや悲しさよりも、純粋にわけがわからないという感情が湧いてくる。そんな様子の少年に、母親はこれまた冷静に詰問を再開した。

「遅くなったのは、帽子を取りに戻ったせいって言ったわね?」
「……はい」
「でも、すずきくんのお家は、ここから歩いて十分掛からないはずよね?」

遅れた時間は三十八分だった。歩いて十分弱の距離ならば、仮に帽子を取りに戻ったとしても、そんなに掛かるわけがない。しかも、途中までいしかわくんが届けてくれたうえに、息を切らして走って帰ってきたのだから、少なくともそれよりずっと短くなるはずだ。

「あ……あっ……ごめんなさい!」

ダメ出しの理由に気づいた少年の顔が青くなる。説明に不備があったのだ。門限を破った理由の説明として適切なのは、帽子を忘れたからではなくて、遊びに夢中になって時間を忘れたからなのだ。そのうえで、帽子を忘れてさらに遅れたと説明するべきだったのである。

「遊んでいて門限を破ったんじゃ怒られると思って、帽子を言い訳にしたんじゃない?」
「そう、です」

完全に見破られた、というより、そこまで追求されると思っていなかったのが、少年の本心であった。慌てふためいてしどろもどろになっただけで、嘘までついたという意識すら薄かった。

しかし、母親はあえてそこに拘った。なぜならば、お仕置きにはしっかりとした理由が必要で、それに対して適切な罰を与えることで、初めて意味があると思っていたからなのである。

「噓を吐いたら、どうなるの?」
「悪いお口を、お仕置きされます……」

しっかりと目線を合わされて問われたら、とても言い逃れなんて、できなかった。

バチンッ!

靴べらでお尻を打った時よりも、ずっと激しい音がして、視界に一瞬星が飛んだ。

「最後は三十八分の正座です。自分のどこがいけなかったのか、よく考えて過ごしなさい」
「はい……」

キッチンタイマーをセットして、母親がその場を離れていく。エプロン姿の背中を見送りながら、そっと袖口で涙を拭うと、打たれたばかりの頬にかすってジリジリと痛んだ。いまだに耳はキンキンしていて、腫れたお尻は寒さもわからないくらいに疼いている。

(かたい)

膝には石模様のタイルの硬質な感触と、靴底から落ちた砂のジャリッとした違和感がある。これが時間が経つにつれ、徐々に痛みを増していくのだろう。小さく身を捩りつつ、まだまだ涙で霞んでいる視界には、白熱灯の玄関照明がキラキラと眩しく映っていた。

(はあ……)

改めて、ため息一つ。背後にわずかな冬の隙間風を感じながらも、隣室からの暖房の熱気で逆上せそうなほど暖かい玄関。お仕置きに疲れ、泣き疲れ、ぼんやりとした頭で過ごす三十八分間は、あっという間のようでいて、長く長く、少年の記憶に残ったという。


2018-01-17 正座 

……


お久しぶりかつ、やや厳しめ?
次回は甘めなペンペンを書きたいなと思いつつ、今回はこの辺でヽ(´エ`)ノ
感想いただけましたらありがたく思い候。

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