2017年06月 - 桃尻文庫

朝六時半片桐家の風景

鳥たちのさえずりに、心地よく眠りから覚める。残念ながら片桐家では、そんな優雅な風景は見られなかった。まだ朝の六時半、気温の上がりきらない清々しい青空に響き渡るのは、びっちんばっちん、激しいお尻叩きの音と、ぎゃーぎゃーわんわん、泣いている子供たちの声なのであった。

いかにも子供部屋らしいカラフルなラグの上、兄と妹は二人並んで四つん這い。寝起きの顔を洗う暇も与えられず、文字通り叩き起こされている。傍らで母親が振り上げているのは、古めかしい布団叩き。もちろん、それなりに力加減はしているのだが、節くれだった籐の鋭さは、さっそく幼いお尻たちにミミズ腫れをいくつか描いていた。

オネショだろうか。いや、どうやら違う。太腿まで引き下げられた二人の下着は乾いているし、布団だって湿っていない。じゃあ、なにゆえに、朝からこんな事態になったのか。当然ながら、それには相応しい理由があるのである。

……

それは昨夜のことだった。

「おやすみー」
「おやすみなさい」

家族揃ってご飯を食べて、お風呂に入って歯磨きもして、兄と妹は子供部屋へと戻っていった。もう夜の十時半。あとは寝るだけ、ベッドにダイブ……するはずだった。

「ねむれん」
「わたしもだ」

今日に限って、兄と妹は目が冴えていた。その日、たまたま夕飯前にウトウトとリビングのソファで船を漕ぎ、さらにさきほどテレビの番組で、それはそれは怖い話を見たからなのである。

「すごかったなぁ」

幽霊の姿を思い出し、兄は言う。

「おう、あれはよくできていた」

それに応じて、妹は番組の出来に感心した様子で頷いた。

大人からすればなんてことはない、ありふれた怪談や不思議な体験をまとめたショートストーリー集。しかし、短編ドラマ仕立てで雰囲気たっぷりのその番組は、まだまだ経験値の少ない子供たちには、ずいぶんと新鮮かつ刺激的だったらしい。

「だめだ、ねむれん」
「うむ、これがねてなどいられるか」

あるいは、怖がって眠れないというのであれば、むしろ、まだ良かったのかもしれない。少なくとも、朝まで大人しく布団に包まっていたはずだから。しかし、性質の悪い事に、こやつらは好奇心や冒険心を擽られ、興奮して眠れなくなっていたのである。

「探検だ!」
「この目で見ねば!」

二段ベッドの上と下。兄と妹は親たちに聞こえぬように声を潜め、しかし、しっかりと意思を確かめあったのだった。

「ならば、もう少し、奴らの寝静まるのを待って……」
「道具の調達は、わたしにまかせるがよい」

タオルケットを跳ね除けた兄が下段のベッドを覗き込むと、無駄に座禅を組んでいた妹は、眼鏡のツルを指でくいと持ち上げてみせた。普段、ケンカばかりしている二人も、こういう時だけは気があうのだ。

……

深夜の三時三十三分に鳥居を潜ると異世界に行ける。なにがどういう仕組みかは知らないが、少なくとも、さっきのテレビはそう言っていた。

「さすがに暗いなぁ」
「まあ、夜中であるからなぁ」

玄関に常備してあったLEDの懐中電灯と、小遣いで買ったデジタルな腕時計が、深夜の道をゆく彼らの装備であった。住宅街を離れ、疎らになった街灯の隙間を今時の青白い光が照らす。

「意外と出られるもんだなぁ」

兄がトイレにいくふりをして水を流し、妹がその音に紛れて靴と電灯を拾う。そんな高度な連携プレイ。後は自室の窓から出てしまえば、家から抜け出すのは造作も無いことだった。

「そらぁ、彼らも夜は寝るであろうさ」

大人は疲れているからな、と、妹はサンダルをサリサリとアスファルトに擦り付けながら、兄の横を歩いていた。

深夜二時半。子供の足で二駅ほど離れた神社に向かうには、ちょうどよい頃合いだった。

……

ざああ。暗い夜空に解け消えた、木の葉を揺らす風の音。懐中電灯のしょぼい灯りで描き出される土の地面や、年季の入った石畳。それら普段とは違った景色が、二人には特別で新鮮だった。

あるいは、いけないことをしているという事実が、より気分を盛り上げたのかもしれない。

「着いたなぁ」
「意外と掛かったなぁ」

だから、臆することなく最後まで来てしまった。朱色の鳥居を前にして、二人は手の甲で額の汗を拭い、改めて時間を確認した。あと五分、ギリギリセーフ。自転車なら大した距離ではないのだが、歩いてみると結構あったのである。

「よし、もうすぐだ」
「おう」

腕の時計を確認しつつ、繋いだ手の平はお互いに汗ばんでいた。歩き疲れたせいもある。しかし、冒険心はあるとは言っても、やっぱり、なんだかんだ言って少しは怖いのだろう。

「いまだ!!」
「うおお!!」

三時三十三分。タイミングを見計らい、二人はダダダッ!と駆け出した。

『誰だっ!!』

そして、社務所に詰めていた宮司さんに御用となった。

……

『申し訳ございません、すみません、ごめんなさい、ご迷惑おかけ致しました』

こんな言葉が何百回聞こえたことやら。連絡を受けてタクシーで迎えに来た両親は、平身低頭、改めてお詫びに来る旨を伝え、二人を引き取り家に帰った。

『なんでこんなことしたの!!』

まずはそう怒鳴られて、成り行き、ビンタの二つ三つも貰うかと思いきや、神社でも帰りのタクシーの中でも、両親は静かなものだった。

『はぁ……』

人前だからか、深夜だからか、あるいはその両方か。ともかく、疲れきった深い溜め息が何度も吐かれ、両親の表情はすっかり寝不足といった塩梅の、少なくとも、いつも子供たちに見せているそれとは程遠くなっていた。

「今日は寝ろ、明日も仕事だ」
「いいからもう寝なさい……」

帰って早々、ぐったりとした様子の両親に追い立てられて、二人は自室に押し込まれた。怒られなかったぜ、ラッキー! なんて一瞬考えたのは確かだが、しかし、次の言葉が二人に現実を突きつけた。

「朝一でお仕置きするから、覚悟しときなさい」

特別に厳しくするからね、という抑揚を殺したセリフとともに閉められるドアを見て、今更ながらに二人は震え上がったのであった。そう、この家では、悪いことには必ず罰がついてくる。内容はもちろん、お尻ペンペンのお仕置きだ。

……

そして、朝、布団叩きが弧を描き、また一つ、ばちんと景気の良い音がした。

「も、おしりむりぃぃぃ…!」
「だめ、ちゃんとお尻上げなさい」

痛みに耐えかねへたり込んだ妹に、母親は容赦なくお仕置きの続行と、姿勢を崩した分の追加罰を告げる。ばち、ばち、ばちん!と小刻みに連続で打ち鳴らされて、妹の真っ赤なお尻が激しく踊る。

「昨夜、どれだけの事をしでかしたのか……しっかりとお尻で反省しなさい」

小さな手首を捻り上げられ、また元のように四つん這いの姿勢を取らされる。兄は腫れ上がった妹のお尻を横目に恐々としつつも、自分はああはなるまいと、挫けかけていた体に再び力を込めて、次の一発に備えたのだった。


おしまい。


※とある方に描いて頂いたイラストに強い刺激を受け、勝手ながら書かせて頂きましたヽ(*´エ`*)ノ
二人の性格は作ってしまいましたが、元キャラがいましたらごめんなさい。

お道具箱(母娘お灸あり)

「これからは自分で管理しなさい」

 

去年の誕生日。母にそう言って渡されたのは、私が日頃使っていた、いや、使われていたお仕置きの道具たちだった。そう、うちには今時めずらしいお仕置きの習慣がある。それも、周りと比べてかなり厳しいものばかり。

 

黄色い小ぶりな洗面器とイチヂク浣腸の大箱、お尻叩きに使っている杓文字。それからお縛り用の紐に、ミニサイズのお線香と艾の入った紙袋。そして、万が一のために敷くビニールシート。見るのも嫌なそれを、私は自分の手で保管しなければならなくなったのだ。

 

「きちんとお手入れをして、残りが少なくなったら無くなる前にちゃんと報告すること」

 

母は私にそう言い含めると、大きな空き箱に入れたそれらを託したのだった。

 

「杓文字とお浣腸を二つ持って降りてらっしゃい」

 

ある休日の夕方、お仕置きを宣告された私は青ざめた。昼間のうちに宿題を終わらせる約束を破っただけにしては、厳しい罰だったせいもある。けれど、それ以上に心臓を揺さぶったのは、件のお仕置き箱の中身のせいだった。

 

(どうしよう、浣腸が無い!)

 

前に使った時、お仕置き後の痛みと疲れで数を確かめるのをサボってしまい、ついそのまま部屋に持ち帰ってしまったのだ。後から気付きはしたものの、自分を痛めつけるための道具となると、なかなか買ってくれとは言いにくい。それも、お仕置きの中で最も恥ずかしくて嫌な浣腸となれば、なおさらだった。

 

「無くなる前に報告しなさいと、ちゃんと言っておいたでしょう」

 

私が一階のリビングに降りていき、母に恐々としながら浣腸が足りないことを伝えると、お見通しとばかりにお説教が始まった。

 

「いつ言いに来るのかなと、ずっと待っていたのよ」

 

あえてカーペットから外れたフローリングの部分で正座しながら、母のお説教を受ける。浣腸を箱から取り出して使うのは母なのだから、無くなったことは知っていた。それでもなにも教えてくれなかったのは、私に自分で責任を持って物を取り扱うことを教えるためだったという。

 

「今日はしっかり躾てあげないとね」

 

エアコンの風を受けた床の冷たさ。それがすっかり膝の体温に馴染んだ頃になって、ようやくお説教が終わり、今回の罰の内容が明かされた。

 

お尻叩き50回と、本来するはずだった浣腸の代わりのお灸、米粒大を4壮。そして、浣腸が無くなっていることを報告しなかった罰として、お尻叩きをもう20回と、夕飯までのお立たせである。

 

痺れた足で二階の自室から必要なお道具を持ってくると、母は私の泣き声が漏れないように雨戸を閉めて待っていた。

 

……

 

『ごめんなざいっ!!ごめっ、ごめんなざいっ!!』

「まだ半分も終わってませんよ、暴れるんじゃありません」

 

暴れると言っても、私は手首と足首とを一纏めに紐で結わえられているので、その場で身をよじるのが精一杯だ。

 

それでも杓文字の一撃がお尻に弾けるたび、私の頭は真っ白になって、水揚げされた魚が跳ねるようにシートの上でお尻を踊らせてしまう。

 

左右交互。お尻のほっぺたを均等に真っ赤に染められ、最初のお尻叩きを終える頃には、床と擦られた背中にもじっとりと汗をかいていた。

 

「次はお灸のお仕置きですよ」

 

50発を打ち終え、一旦、杓文字を脇に置いた母が艾を丸めてお灸の用意をしはじめた。

 

私は縛られたまま仰向けに転がされているので、母の手元は見えないが、かさかさという紙袋の音を聞きながら、少しでも小さく拠ってくれますようにと、誰にともなく祈っていた。

 

「さあ、据えますよ。あっという間だから、しっかり我慢なさいね」

 

ライターの石を擦る音が聞こえ、あたりにお線香の香りが漂うと、早くも嗚咽が漏れ出した。

 

「まずはここに据えてあげます」

 

唾で湿らせた母の指先が、私のお尻の谷間に触れた。冷やっとした感触があったのはお尻の穴より少し上、普段はお尻の肉に隠れて見えない部分だった。

 

濡らした部分に艾が置かれ、お線香の火が近づいていく。

 

私の足をしっかりと掴んでいる、母の左手の力強さ。その指の食い込みと同じくらい、私は身を固くして歯を食いしばった。

 

「あづいっ!!あづいよっ!!」

 

お線香の香りに艾の燃える煙臭さが混じったのが分かると、同時に皮膚を焼くお灸の熱も訪れた。お尻の間への違和感はすぐさま熱に変わり、数秒も経たないうちに、まるで釘でも刺されたかのような強い苦痛に変化した。

 

「いづぅぅ……!」

 

ぎゅっと身が縮むようなお灸の熱さ。米粒大のそれが熱いのはほんの一瞬だが、肌を焼かれた余韻がジクジクとお尻の間で疼いていた。

 

「次はここです」

「あいっ!」

 

ついで母の指が触れたのは、1壮目から更に1センチほど先。火傷したばかりの部分の近くを触られる痛みと恐怖で、引き攣ったような返事しかできない私のお尻を軽く叩いて、また母の左手が私の足首を力強く掴んだ。

 

……

 

「お夕飯ができるまで、そこで立ってなさいね」

「はい……」

 

表面も谷間も、満遍なく痛んで疼くお尻を出したまま、視界には涙で滲んだクロス壁が見えた。我が家ではお馴染みの光景だ。

 

お灸は3、4壮目も、それぞれ少しずつずらしながら、同じようにお尻の間に据えられた。そこまではなんとか踏ん張れた私だが、お灸と最初に受けたお尻50発の痛みが残る中での、最後のお尻20発は流石に堪えきれず、今日もビニールシートを汚してしまった。

 

お漏らしは次の日まで下着没収。だから、今日はもうお尻をしまえない。

 

お夕飯までの二時間ほどのお立たせの後。裸のまま座った食卓椅子のひんやりした木の感触が、火照ったお尻に意外に心地良かったのは記しておこうと思う。